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What's Fishing Line 本当の強さを保つ、ラインの扱い方

使う前から
傷んでいるかもしれない、
あなたのライン

リールを使う釣りにおいてラインはスプールから放出、または送り出され、巻き取られることがくり返されます。
PEラインの場合、その過程でトラブルとして思い当たるのが、糸ヨレやリールのスプールに巻いたラインへの食い込み、エアノット(ガイドに絡み付いたり、ガイドをうまく通過せずに絡むこと)、糸コブ(小さな結び目)などになります。
いずれも正常にラインが放出されない、送り出されない、あるいは巻き取りができていないために発生することが大半ですが、トラブルには防ぎやすいものとそうでないものが存在します。
たとえば仕掛けやルアーが回収時に回転したり、釣った魚が旋回することで発生してしまう糸ヨレは、どうしても避けることができません。また、進化したとはいえスピニングリールは構造上どうしても糸ヨレが発生してしまいますし、PEラインを想定した設計のリールばかりではありません。
一方で食い込みやエアノット、糸コブ、それにともなう高切れの一部は比較的防ぎやすいトラブルだといえるでしょう。

過剰なテンションと
摩擦はNG

我々がラインを出荷するとき、製品スプールに収納する際は巻くことのできる最小限のテンションしか与えず“やわらかい”状態です。もちろんそれは、ユーザーのみなさんに最高の状態でラインをお届けするためです。
そのようなラインをリールに巻くときの最大のポイントは、不要なダメージを与えず、適正な長さを対象魚(とその釣り)に合わせたテンションで巻くということです。
まず適正なテンションですが、想定されるドラグ設定値以上の力をかけて巻く必要はまったくありません。そして基本的に製品スプールには直接荷重をかけないこと。使用するラインの太さにも寄りますが、指やガイドなどを介して支点を1カ所設けて巻くことがコツです。
次に一定の速度で巻くこと。巻き始めと巻いている最中とではラインにかかる負担が大きく変わります。自転車の漕ぎ始めと、速度が出てからの足への負担が変わるのと同じで、途中でスピードが変化したり停止してしまうとテンション差が生じてしまいます。そして巻くときには強く擦過させないこと。ラインが触れる部分を極力減らし、ガイドや指を介する場合も、あくまで“補助”という認識を忘れないでください。
釣り糸全般に言えることですが熱は大敵です。そして熱を発生させることは簡単です。リールに巻き取る際にラインを熱いと感じたときは手遅れと言っても過言ではなく、その時点で温度は80~90度に達しています。つまり大幅に劣化している証拠なのです。

たとえば学生時代、体操着を着て体育館のフロアでボールを追いかけ、滑り込んだ経験のある方は少なくないでしょう。熱いと感じてヒザを見ると生地が溶けていた、なんてことは珍しくありませんが、その溶けた体操着の材質であるポリエステルの融点は約270度。これに対してPEラインの材質である高分子量ポリエチレンの融点は約150度なのです。
つまりPEラインの繊維に熱や擦過のダメージを与えることは、見た目以上に性能のダウンにつながってしまいます。いくらナイロンやフロロカーボンに比べて強度が上だったとしても、表示号数よりワンランクあるいはそれ以上性能が落ちてしまっては意味がありません。

違った巻き取り方法と
その理由

しかし現実には、間違ったラインの巻き取り方法があまりにも多くおこなわれています。
たとえばもっとも多いのが、製品スプールに直接強いテンションをかけて巻いてしまうことです。前述のように最小限のテンションで巻いてあるため、強いテンションがかかると製品スプール内でラインが食い込み、ときには切れてしまうトラブルも発生します。
「製品スプールからリールのスプールに巻く際に製品異常が生じた」といったクレームが我々に報告されることもありますが、その状態を仔細に調べてみるとかなり傷めつけながら巻こうとしたケースがほとんどです。
ただし、1号未満の細いラインに関しては製品スプールからリールのスプールへ、緩いテンションで直接巻き取ることが現実的な最良の方法でしょう。
二番目に多いのは、先ほどとは反対にテンション不足でリールに巻き取ることです。これは実釣時にドラグが作動してラインが出るとき、リールのスプール内で食い込んでしまうことがあります。
三番目は大型魚狙いのケースで多いのですが、リールのスプール内での食い込みを恐れて過剰なテンションで巻き取ることです。これはPEラインの組目のバランスが崩れたり扁平化することで、実釣力の低下やガイド鳴きの原因となります。
四番目はリールのスプールの適正量を超えてラインを収納することです。PEラインの組紐形状は使用による伸縮(≒膨らみ)が発生するため、知らず知らずのうちに適正量を超えてエアノットの原因になることがあります。特にスピニングリールの場合は注意した方がよいでしょう。
最後は手袋やタオルなどでラインを押さえながらリールに巻き取ることです。これは濡らした状態でも悪影響は変わらず、表面コーティングの剥がれや毛羽立ちによりトラブルを誘発してしまいます。
PEラインは正確な組目になるように調整され、製造しています。表面のコーティングも釣り方に合わせて適正なものが施しています。間違った取り扱いは良品を不良品にしてしまいますが、残念ながらこのような取り扱いは世間一般で習慣化されているのが現状です。
濡れタオルで挟んで強いテンションをかけながら巻き取ることが、量販店で常習化していたり、ラインメーカーの公式動画でアップされている例さえあります。

ユーザーのみなさんに
知ってほしいこと

できるだけよい状態でPEラインをリールのスプールに納めるには専用の機械を使用することが考え得る最良の方法ですが、一部のプロショップに備えられている程度です。市販品の機械も高額なので一般的とは言い難い面があります。また、いずれも擦過については考慮されていないため100%ではありません。
我々ラインメーカーは、ここまで述べてきたことをユーザーのみなさんにご理解いただき、注意しながらリールに巻き取っていただくことをお願いするしかできません。非常に忸怩たる思いです。
「原因が分かっているなら、ラインメーカー側で対処すべき」
確かにそうかもしれませんが、お求めやすい価格で高品質なラインを提供すること。それも最高の品質で。ということになれば、残念ながら今は出荷時に最小限のテンションで製品スプールに巻くことしかできないのです。
たとえば製品スプールの形状を大幅に変更すれば問題は解決できるかもしれませんが、大幅な価格アップにつながります。出荷時に強いテンションで製品スプールに巻き取ればトラブルは激減するでしょうが、一方でラインの品質そのものが大幅に低下してしまいます。
いずれにせよPEラインがどのような状態で出荷されているかをご理解いただけないと、最高の状態のラインで釣りをすることが難しくなってしまいます。出荷時の品質について我々は保証できますが、釣行時のラインの状態を左右するのは、ひとえにユーザーのみなさんのご協力次第なのです。
つまり、本当のラインの品質とは製造するメーカーだけでなく、釣り人との二人三脚で築き上げるもの…。私たちは、そのように考えています。